積丹で過ごす「秋からのサマータイム」

9月某日、アリオ札幌で、ハンバーガーボーイズの北海道マルシェが開催されました。ハンバーガーボーイズは道内で活躍する3人組の音楽ユニットで、自治体をイメージした楽曲制作を行っています。道内5つの自治体が二日間にわたって特産品を販売しました。

特に目を引いたのが、積丹半島にある「神恵内村」の特産品です。うりゅう米(雨竜町)と神恵内産ウニがコラボした「うにぎり」や、ホッケバーガーなどが飛ぶように売れています。神恵内村のテーマソング「EVERY TIME KAMOENAI」を披露すると、会場のテンションはマックス。積丹半島に行きたい気持ちが高まります。原子力文化財団(JAERO)の協力を得て、シーカヤックとおいしい魚介を堪能しました。


愛車紹介

カワサキKLX250(2008年モデル)が旅の相棒です。水冷4ストローク単気筒エンジンを搭載し、排気量248cc、最高出力は24馬力です。車重136㎏と軽量で扱いやすく、30/ℓと低燃費。街乗りからロングツーリングまでこなしてくれるオールラウンダーです。


シーカヤックで積丹ブルーを満喫

積丹はアイヌ語で「夏・村」を意味し、夏になるとたくさんの人が訪れます。しかし本来の静けさを求めるのなら秋が一番。今年は猛暑が続き、9月下旬でも海水温が高いそうです。海からの眺めを楽しむために、シーカヤックツアーに参加しました。

積丹でシーカヤックツアーを実施するガイドはいくつかありますが、約20年の歴史を持ち、積丹半島を知り尽くしている「積丹カヤックス」のツアーに参加しました。代表の西村 巌さん(千葉市出身)は、大学時代に自転車で北海道を一周した勢いで札幌の会社に就職。初めての海外旅行で体験したアリューシャン列島単独シーカヤッキングに刺激を受けて、2003年に積丹カヤックスを設立しました。

積丹カヤックス

住所:丹郡積丹町大字野塚町新道139-1

https://www.shakotankayaks.com/

出発前に本日の波や天候の説明を受けます。午前中は穏やか、午後から少し風が強くなる見込みですが、カヤックを楽しむには問題ないとのこと。一人用カヤックを漕いで西村さんと一緒に神威岬を目指します。

コクピット内に水が浸入しないためのスプレースカートやライフジャケットを装着後、操作方法を教えてもらいます。「転覆したときは海に中吊りになりますが、冷静に対応してください」と言われましたが、冷静でいられるか自信ないです。

美しい海と積丹半島が抱える課題

カヤックを浜に移動させて積丹ブルーの海に出発しました。9月末だというのに泳げそうな水温。抜群の透明度と海藻が少なく、海底に転がる白い岩が積丹の海をコバルトブルーに彩ります。カヤックに驚いたイワシの集団が目の前でジャンプしました!

積丹ブルーは「磯焼け」と呼ばれる現象で、自然環境として望ましいことではありません。積丹町では漁師とレジャーダイバーが協力し合い、磯焼けの原因のひとつであるキタムラサキウニの異常繁殖による海藻の食害防止に取り組んでいます。


義経伝説悲劇の岩

約1時間30分ほど漕いで神威岩に到着しました。高さ41mの岩礁には源義経の伝説が残されています。平泉で自害したとされる源義経は生き延びて北へ逃れ、平取のアイヌの長の許に身を寄せたと言われています。そこで長の娘であるチャレンカと恋に落ち、将来を誓い合いました。しかし義経は中国大陸を目指して旅に出るために、チャレンカに黙って平取を去って積丹半島に移動しました。

その後を追ってきたチャレンカが神威岬に着いたときには義経一行は船に乗って中国大陸へと旅立っていました。それを聞いたチャレンカは泣き崩れ、神威岬の突端から身を投げました。その遺体は石と化し、神威岩になったと伝えられています。


サルパという不思議な生物

海面に不思議な生物が浮遊しています。これはホヤの仲間で「サルパ」という生物です。透明な体を持ち、中心に朱色の内臓が透けて見えます。単体、あるいは長い糸状のコロニーとして見られることもあります。プランクトンを捕食する際の海水をジェット水流にして移動したり、有性生殖と無性生殖(クローン)を繰り返して繁殖するなど、調べれば調べるほど興味深い生物です。


無人の岩場で男二人のランチ

岩場に上陸して、ランチをいただきます。西村さんがタコスを作ってくれました。5月中旬までギョウジャニンニク料理、5月下旬〜9月はタコス、10月はパエリアを提供しています。「メニューを固定しているので、毎日同じものを食べなきゃならないんです」と、西村さんは笑います。

地上から来ることができない岩場に西村さんと二人きり。「どうせなら本仮屋ユイカちゃんなら良かったのに」と思いました。日差しが強く、Tシャツ1枚でも寒さを感じません。カヤックを漕いだ疲れさえも爽快に感じました。

触れ合うことができないヤツが見送ってくれた!

楽しい時間はあっという間に過ぎ、スタート地点に戻る時間がやってきました。心は「もっとカヤックを漕いでいたい」と叫んでいますが、体は「もうやめてくれ」と頼んでいます。

後ろ髪惹かれる気持ちを分かっているのか、ギンカクラゲが見送ってくれます。刺胞の毒性は弱いですが、人によってはアレルギー反応が出るので別れの握手はできません。傾きかけた日差しを受けて、岸に向けてキラキラと輝く海を漕ぎ続けました。


龍推しの神恵内村

バイクを走らせて、本日の宿泊地「神恵内」に向かいます。海岸線は奇岩のオンパレード。長らく人を寄せ付けない厳しい環境だったことがわかります。

神恵内の地名はアイヌ語で「カムイナイ」(神の沢)を意味し、漁業を中心に発展してきましたが、今や人口約750人。2020年度の高齢化率は51.50%で、総人口の半分以上が高齢者です。原子力発電所がある泊村に隣接し、近年では原発から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査が進んでいます。

村のキャラクターは、当丸沼に住む竜神様が竜神岬から昇天したというアイヌの伝説がモチーフです。平成4年に開村120年を記念して決定しました。

廃業予定から一転。古くて新しい宿

本日のお宿、黄色い外観が目印の「SRP網城荘」に到着しました。


SPR網城荘

住所:古宇郡神恵内村大字神恵内村83-29

電話:090-9053-2455

https://tsunakiso.spr-kamoenai.com/


客室は全室和室ですが、中には畳にベッドを組み合わせた和洋折衷の部屋も用意されています。ベッドは柔らかくて寝心地満点。国道を通る車は少なく、静かな時を過ごすことができます。

食事は1階の居酒屋「共盛丸」でいただきます。

漁師の家庭で育ったご主人にとって魚の扱いはお手のもの。ヒラメは自ら神恵内沖で釣り上げたそうです。急速冷凍で保存しているので鮮度が保たれています。うまいなぁ、たまんないなぁ。

アワビは秋から冬にかけて旬を迎えます。バター味の鍋には二つのアワビが入る贅沢さ。

やっぱ、うまいなぁ、たまんないなぁ。

秋の味覚「イクラ」も登場しました。ほどよい塩味とプチプチ弾ける食感がたまりません。白米にぶっかけて一気にかき込むのが一番。どの料理もおいし過ぎて、ご飯をおかわりしました。 

朝食も食べ応え十分。この内容で一泊二食付き1万2千円(取材時)はリーズナブルです。すっかり胃袋を掴まれました。


移住者のカフェ

「江別市からの移住者がカフェを開いている」と聞き、「泊まれる喫茶店ふくろま」に立ち寄ってみました。私も3歳から18歳まで江別で過ごしたので、親近感がわきます。

泊まれる喫茶店ふくろま

住所:古宇郡神恵内村80-4

電話:0135-67-7397

営業日:土・日

営業時間:11:00~17:00

オーナーの木滑雄大さんは、2016年に地域協力隊として神恵内村に移り住みました。住民の方々と接する中で、村に必要なものを考えたときに、コミュニティの場を作ることを思いついたそうです。時計店だった店舗をD.I.Yで改装し、2019年に漁獲したニシンを海中で一時的に保管する港湾施設「「ふくろま」を店名にしたカフェのプレオープンを開始。2020年に本格的に始動しました。

木滑さん自ら改装し、外観も店内も手作り感たっぷり。地域のコミュニティを目的に開業しましたが、思いがけず村外のお客さんの利用が多いそうです。村民から寄贈されたピアノやギターを使って、ちょっとしたセッションが開かれることもあります。

客室の壁などに描かれた絵は、岩内町の児童養護施設の子どもたちによるアートです。「1年に一度きれいに消して、"壁に落書きができる宿"として楽しんでもらいたいのですが、なかなか手が回りません」と言います。

一期一会で終わらせたくない出会いがあった

おしゃべりはとても楽しく、気がつくと1時間も過ぎていました。木滑さんに見送られながらバイクを走らせます。バックミラーに写る姿を確認しながら、「いつかまた、今回の旅で出会った人たちに会いに来たい」という思いがこみ上げてきました。

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